理学療法士の鈴木です。ぺんぎん保育園には、月2回ほど運動遊びのアドバイザーとして勤務しています。子供たちと相対する頻度はあまり多くはありませんが、時々会うからこそ、1人ひとりの成長の早さに気付き、よりステップアップを目指すためのアドバイスを行うことができます。 今回は、保育園における理学療法士の役割について、少し触れたいと思います。
理学療法士とは
理学療法士はPhysical Therapist(PT)とも呼ばれ、ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持および障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する医学的リハビリテーションの専門職、とされています。

何だか難しい言葉がたくさんですが、理学療法士を一言でいうならば「動作の専門家」と言えます。「寝返り」「起き上がる」「立ち上がり」「歩く」「走る」など、日常生活を行う上で基本となる動作の改善を目指し、関節可動域の拡大、筋力強化、麻痺の回復、痛みの軽減など運動機能に直接働きかける治療法から、動作練習、歩行練習などの能力向上を目指す治療法まで、動作改善に必要な技術を用いて、日常生活の自立をサポートします。
理学療法士は国家資格であり、免許を持った人でなければ名乗ることができません。理学療法士免許を取得したセラピストは、主に病院、クリニック、介護保険関連施設、児童福祉施設等で働いています。近年は、高齢者の介護予防、フレイル予防、健康増進、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に対する指導、スポーツ現場、産業分野など活躍の場が広がっています。
理学療法士の保育分野への関わり

理学療法士が活躍する場は、主に高齢者や障がい者という印象を持たれている方は多いのではないでしょうか。全体を見てみると、確かにそうした方々を対象にリハビリを展開することが多くあります。しかし、先ほど述べたように理学療法士は「動作の専門家」です。そして、子供と大人では動く量や、動くことでの脳や体への影響や意味合いが異なります。例えば、動き方のクセや自分の体について特に気にかけることもなく、好きな遊びや運動をしていくと、得意な動きや苦手な動きが顕著に現れてくることがあります。それは、もともと成長過程での筋肉の発達のアンバランスや、動きの偏りなどが蓄積されるために生じている場合も多くあります。
そこで、人がどのようにして動くのか、身体の仕組みや筋肉の働きなどを学んだセラピストの目があれば、普段の遊びや動きの中に不足しがちな要素を見つけ出し、遊びの中に組み込むことが可能になります。また、発達の遅れなどについても早期発見が可能になり、今後の成長に向けた対応に繋げることもできるかもしれません。できなくなってしまったことの回復を目指すサポートが仕事の理学療法士ですが、その知識や技術は保育現場にも大きく寄与することができる可能性を持っています。
ぺんぎん保育園での理学療法士の役割

アクタガワのぺんぎん保育園では、子供たちの月齢に合わせて発達段階を評価し、それぞれに合った難易度で運動遊びを行えるような運動プログラムを展開しています。評価の指標は、子どもの運動や認知の発達段階に沿って理学療法士が策定に関わりました。この運動プログラムの指標をもとに保育士が日々の運動遊びの組み立てを行い、月に2回の理学療法士の来園時にその成果を確認する、というサイクルの中で、一人ひとりの発達スピードに応じた対応ができます。
例えば、歩くときに体がグラグラ揺れてしまい、転びやすい子に対し、普段の遊びの様子や運動遊びの動きから、「体幹の力が弱くてバランスがとりにくい」という課題を見つけることがあります。この場合、安全が確保された環境設定のもと、少し高い所へのよじ登りや、ぶら下がって足を持ち上げる、ジャンプをして両足でしっかり踏ん張る、といった機会を遊びの中で多く設けてもらうようにアドバイスすることもあります。
他にも、身体が硬いと感じる子には、本人が嫌がらずに楽しめる感覚の中で、苦手な方向へのストレッチを誘導するなどのアドバイスをすることもあります。
人間の体は一人ひとり発達のスピードが異なるため、同じ課題に取り組んだとしても全く同じようにこなせるわけではありません。しかし、「できない」=「ダメ」ではありませんので「少し苦手な部分なんだな」という事実を受け止め、「苦手」が「嫌い」にならないように様々なアイデアを提供させていただいています。 運動が得意、不得意に関わらず、一人ひとりの子供が今この瞬間をどう生きようとしているのか、どう感じているのかを大切にしながら、健やかな心身の発達を促すことができるよう、これからもサポートしていきたいと思います。